【開催報告】EMG Workshop Tokyo 2025
2025/10/24
開催日:2025年10月24日
プログラム:https://hi-cem.hias.hit-u.ac.jp/en/event/20251024/
10月24日に開催されたEMG Workshop Tokyo 2025では、15名の参加者が出席し、物価指数や経済測定などに関連する最新研究の紹介と討論を行った。当日は、Erwin Diewert教授 (The University of British Columbia)、Prasada Rao教授 (The University of Queensland)、阿部修人教授 (一橋大学) 、清水千弘教授 (一橋大学) 、Kim Hongjik講師 (一橋大学)の5名が研究内容を発表した。
Erwin Diewert教授は、価格指数の構築に関する理論的課題について発表を行った。特に、Fisher指数をはじめとする伝統的なバイナリー価格指数に対して、整合性・対称性・可逆性・モノトニシティといった21のテストを紹介し、それらをすべて満たす唯一の指数がFisher指数であることを再確認した。また、時系列における指数の連鎖性(チェーン性)の重要性や、異なる期間を跨ぐ価格比較における問題点にも言及し、国際比較において用いられる様々な指数の利点と欠点を理論的に整理した。
Prasada Rao教授は、国際価格比較のためのGEKS(Gini-Eltetö-Köves-Szulc)法に対して、新たに提案する加重版GEKS(weighted GEKS)法の優位性について発表した。伝統的なGEKS法ではすべての国間の二国間比較を均等に扱うが、本研究では価格構造の類似性に基づいて「信頼できる比較のみを重視する」手法を提案。このアプローチにより、極端な価格乖離が存在する国間の比較を排除し、より整合的で直感に合致する実質GDP水準の推計が可能であることを示した。
阿部修人教授は、消費者の効用関数が変化する品目構成(バラエティ)をどのように扱うべきかについての理論的枠組みを提示した。特に、品目集合が変化する現実の市場に対応するため、「バラエティ整合的効用関数(variety-consistent utility)」を導入し、予約価格(reservation price)を用いた新たな支出関数の構築を試みた。これにより、従来の固定的品目集合の仮定では捉えきれなかった福祉変化の測定が可能となることを示した。
清水千弘教授は、「Alternative Imputations for Owner Occupied Housing(OOH)」と題し、日本における持ち家帰属家賃の推計方法に関する最新研究を発表した。本研究はErwin Diewert教授および総務省統計局との共同研究であり、帰属家賃の代替的な推計手法を用いたCPIおよびGDPデフレーターへの影響分析を目的としている。従来の継続賃料ベースに代わり、新規契約賃料や不動産価格指数を活用したユーザーコスト法など複数の手法が提案され、それぞれの利点と課題が比較検討された。特に、大東建託の約110万件に及ぶマイクロデータを用いた分析では、平滑化手法や実務上の安定性にも焦点が当てられ、公式統計における「家賃の粘着性(stickiness)」の問題や、現行のCPIが市場実勢を適切に反映していない可能性について議論がなされた。今後は地域差や契約属性の違いを考慮した継続的な分析と制度設計が重要であると強調された。
Kim Hongjik講師は、年齢の異なる階層におけるアメニティ(生活環境)と幸福度の関係についての研究を発表した。本研究では、住宅の質、周辺環境、安全性などの要素が個人の幸福度に与える影響を、世代別・所得別に計量分析。特に若年層や低所得層ではアメニティの影響が相対的に大きいことが確認され、都市政策や住宅供給における再配分効果の重要性が示された。



