
センター長 阿部 修人
日本の公的統計部門は、分散型制度で統計作成実務を行っている。同制度には多くのメリットがあるものの、多くの課題もあることが指摘されてきた。その一つとして、統計作成の実務家が各府省で統計作成実務にあたっているために、統計専門家が育成されにくいとうことがある。公的統計の持つ重要性を考えれば、公的統計構築を担う専門家を育成し、国内外の公的統計の利用者から信頼される統計を作成していくことは極めて重要である。
公的統計の利用者は国内だけにとどまらない。公的統計が国際比較可能となるように、各国の統計には品質管理が必要である。世界銀行等の国際機関は、公的統計の品質を確保するために、様々な「統計作成指針」を作成し、各国に示してきた。すなわち、公的統計構築に携わる統計専門家は、世界銀行等の専門家と議論し、指針作成の際に貢献可能な水準の能力が要求されている。
また、アジアに目を向ければ、急速に経済が成長していく過程の中で、公的統計の整備・改善が各国で取り組まれようとしている。このような環境を踏まえると、長年に渡る公的統計作成を行い、多くの知見が蓄積されている日本は、アジア諸国の統計整備にも貢献していくことが期待されている。
一橋大学は、20世紀初頭、藤本幸太郎により日本に近代的統計学をもたらし、日本における統計学研究を先導すると共に、公的統計構築においても、統計局長として第二次大戦後の日本の消費者物価指数の作成に携わった森田優三や、国際連合本部統計局局長として購買力平価の推計に尽力した倉林義正等、統計構築において一橋大学が果たしてきた役割は大きい。近年では、国際機関で消費者物価指数や国民経済計算、不動産・建設価格統計の統計作成指針の作成をリードしてきた研究者らと共同研究を実施するだけでなく、国内の公的統計にかかわる実務家、研究者らと合同で、国際ワークショップ等を開催し、各府省との連携も進めてきた。
これらの一連の実績を踏まえて、一橋大学に、総務省、内閣府をはじめとする府省や総務省統計研究研修所や統計数理研究所といった統計専門家が集まる機関等とも連携し、国際公的統計研究・研修センターを設立する。同センターは、今までのネットワークを生かして、国内外の公的統計に関わる国際的な研究者との連携だけにとどまらず、国際連合や経済協力開発機構、国際通貨基金等との連携も進め、国際研究集会の開催や各種研修の機会を設け、日本及びアジアの公的統計の品質改善を目的とし、公的統計研究・研修の拠点としていくことを目指していく。